筆跡鑑定 メールマガジン 第7号








★☆★「知らないと損する筆跡鑑定の話」第7号 ★☆★



◆NHKテレビ「ためしてガッテン」で筆跡鑑定



   「偽造の名人と鑑定の名人が対決したらどちらが勝つの?」……このような質問を
   受けることがあります。絶対に壊れない「矛」と「盾」のような話です。NHKの『た
   めしてガッテン』の担当者から筆跡を取り上げたいのですがと相談があった時も同様
   の質問を受けました。


   私は大抵の偽造筆跡は解明できますよと答えました。「ほう、それは凄いですね。それ
   を取り上げたいですね」とのことです。3〜4日してまた電話があり、放映が本決まり
   になった。横浜市立大学に書道の先生がいて、その方は常々、「私が臨書して今まで見
   破られたことはない」と豪語しているとのことです。


   そこで先生と勝負をしていただくという企画はどうでしょうとのこと。それは面白いね
   とやることにしました。


   臨書とは書道の勉強の一つで、古典などの優れた書をそっくりに写し取ることです。私
   も少しはやったことがあります。書道の勉強も色々な方法がありますが、この臨書とい
   うのは集中力を高めるにはとても良い方法です。楷書よりは、一筆で書き切る行書がい
   いようです。


    さて『ためしてガッテン』の試合方法ですが、3人の素人の書き手に同じ文言を2枚
   むずつ書いてもらいます。その6枚のうち1枚だけを、その書道の先生が模写して、私
   に模写した文字を当てさせようということです。了解したら、後日、その文字をファッ
   クスしてきました。


   「筆跡は心を映す鏡、誰が書いたか当ててごらん」という文言です。これを3人が2枚
   ずつ書きます。その3組・6枚のうち、1組中の1枚だけは先生が模写したものです。
   つまり6枚中の5枚は本物ですが、1枚だけ偽造が混じっているというシチエーション
   です。それを発見するのが私の役目です。


   素人といっても、なかなか上手な人たちで、一定の筆跡個性は確保されています。一目
   でとはいきません。30分程検討してなんとかわかりました。それは、非常に上手に模
   写されていましたが、縦画と横画の角度にごく僅かな違いがあり、その特徴が4文字に
   安定して表れていたので解明できたのです。


   これはゲームですが、解明できたのは、やはり難しい偽造筆跡を何回も見破ってきた経
   験があってのことだと思います。偽造と言っても大抵はさほど難しくはありませんが、
   難しいのは、金融関係のプロのような人の書いたものや、極めて乱れた筆跡で且つ単純
   な文字のケースです。乱れが強くて筆跡個性というべきものがほとんど特定てきない 
   ケースは困難です。


   筆跡個性というのは、筆癖ともいい、その人なりの筆跡の癖のことです。人は、誰でも
   独自の行動の癖があるように、筆跡にも独自の癖があります。そして、その癖の多くは
   本人も自覚していないこと多いのです。


    2年ほど前の事件で、そのような、極端に難しい遺言書の偽造を見破ったことがあり
   ます。それは、日頃ほとんど文字を書かない90歳代の母が残した遺言書です。ありふれ
   た便箋に、全てカタカナで「○○ノトチハ○○ニヤル」というような内容が3行ほど書
   かれていました。自分の名前も書いてありましたが、それもカタカナです。


   この争いは、その遺言書を提示した長男と、その姉と弟二人の争いです。長男は母と同
   居していましたが、姉弟の3人は別に暮らしていて、対照資料などもほとんどないよう
   な有様でなかなか厳しい鑑定条件です。


   そもそもカタカナは、字形が単純なので筆跡個性もあまり明確とは言えません。しかも、
   高齢で日ごろから文字を書かない人ということですから、例えば同じ「イ」という文字
   でも斜めの第1画が長かったり短かったり、傾斜も急だったり緩やかだったりと乱れが
   強く、「これがこの書き手の筆跡個性である」と言える部分がほとんどないという有様
   です。


   大抵の鑑定人なら鑑定不能として投げ出してしまうでしょう。わたしも何回かそうしよ
   うかと思いましたが、それはプライドが許しません。1時間、2時間と同じ文字を睨ん
   でいるうちに、不思議なもので類似箇所が浮かび上がってくるのです。そうして、本人
   の筆跡個性を掴み、遺言書の同じ文字を睨むと違いが見えてきます。


   このようにして、かろうじて6文字を鑑定しました。異筆です。断定できます。つまり
   誰かの偽造ということです。こうして遺言書は本物ではないという鑑定書を作成しまし
   た。すると依頼人は、それでは書いたのは誰でしょうかとの質問です。当然、長男の可
   能性が考えられます。


    すると、依頼人は、それも鑑定書になりますかと言ってきました。私は、点検して
   みて「難しいが可能でしょう」と返事をしました。すると依頼人は、それでは是非そ
   れも作ってくれとのことです。


   ふつう、このようなケースでは、必ずしも偽造者を特定する鑑定書は作りません。
   遺言書が本人の筆跡でないと証明できれば目的は達するからです。それ以上やれば費
   用も余分にかかります。しかし、遺言書が本人の筆跡でないとしたら誰が書いたのか、
   というのは当事者にとっては無視できない問題でしょう。


   そして、それが強い証明力を持つものなら裁判上は効果的です。このケースでは、
   それほど説得力のある鑑定書になるという自信は持てなかったのですが、依頼人のた
   っての頼みなので「実際には鑑定して見ないと、その程度は分かりませんが…」とい
   うことでやってみることにしまた。


    ……ところで、今「説得力のある鑑定書」といいました。これについては、弁護士
   先生はともかく、一般人には誤解している人が少なくないので一言説明しておきます。
   とかく、一般人は、分厚く体裁の立派な鑑定書を有り難がるという傾向がありますが、
   これは誤りです。


    鑑定書は当事者が理解するのは当然ですが、最終的には裁判長が判断します。その
   裁判長にとって価値ある鑑定書でなければ何の意味もないわけです、つまり、裁判長
   が、「偏りがなく公正な鑑定書だ」、「要点をしっかり捉えて簡明に説明している」と受け止
   めてくれなくては意味がありません。


   「偏りがなく」はともかくとして、2番目の「要点を捉えて簡明に説明しいる」という
   ことに関しては、今度は、警察系でない民間の鑑定人に誤りが多いのです。そのような
   鑑定人の分厚く立派な鑑定書は、依頼人には喜ばれるでしょう。「さすがに、安くはな
   い料金だけのことはある」と受け止めてくれるかも知れません。


   しかし、これは錯覚です。分厚くなったのが「鑑定そのものを緻密にやった」のな
   ら評価されるでしょうが、大抵は、必要もない宣伝的な資料を詰め込んで分厚くなっ
   ていることが多いのです。このような鑑定書を裁判長は喜ぶでしょうか……否です。


    いうまでもなく、裁判官は最高に忙しい人種です。必要もない宣伝的な資料を見れ
   ば舌打ちしたくなるでしょう。そして、結果として飛ばし読みになり、鑑定の要点部
   分を見落としてしまうというリスクさえ想像されます。


   鑑定書には、鑑定に直接関係のない夾雑物はできるだけ排除すべきです。そして、
   要点を簡潔に説明した鑑定書が喜ばれるし、読み間違いも少なくなります。しかし、
   一方、大抵は民事事件です。当事者は一般の市民です。その当事者にもよく理解ので
   きる鑑定書でなくてはいけません。


   そのためには、裁判員裁判でも注意されているように、難しい法律用語はできるだ
   け避けて一般人に理解しやすいような表現も大切です。その点では、こんどは警察系
   鑑定人に問題があります。鑑定書の用語も、鑑定書の構成も専門家向けで難かしすぎ
   るのです。


   警察系の鑑定書には、一般人が1日読んでもさっぱり分からないものが少なくあり
   ません。これは、「裁判を国民のものに」という時代の要請に応えておりません。この
   鑑定書の問題点につきましては、改めてゆっくりご説明し、できれば弁護士先生の意見
   も聞かせていただきたいものと考えています。


   遺言書偽造の本題に戻ります。2本目の鑑定書は、幸い最初の鑑定書、つまり「遺
   言書と母親の筆跡は異なる」という鑑定書よりも説得力のある鑑定書になり、一本だ
   けの鑑定よりも証明力の高い鑑定になりました、このケースは約半年後に勝訴判決と
   なり、最初は不利であっただけに依頼人から非常に喜んで頂きました。


    判決文には、一本目の「遺言書と母親の筆跡は異なる」という鑑定については、「信
   頼できる」との判断、2本目の「遺言書と長男の筆跡は同一筆跡」との鑑定について
   は、「特に疑問はない」との表現がありました。やはり、費用的な問題が無ければ、よ
   り確度が高まる両面からの鑑定をしたほうがよさそうです。

 
一般社団法人・日本筆跡鑑定人協会   株式会社・日本筆跡心理学協会 
代表 筆跡鑑定人  根本 寛(ねもと ひろし)
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