知らないと損をする筆跡鑑定の話 第26話





【東京都弁護士協同組合の会報でお褒めを頂く】




  ■警察系の「類似分析」に弁護士さんもびっくり


  最初にお詫びを一つ申し上げます。今までこのメルマガは月二回のペースで発信させ
 ていただいておりましたが、今後は月一回のペースにさせて頂きます。業務多忙のため、
 少しペースを落とさないと苦しくなりました。


  昨年、東京都弁護士協同組合(以下「東弁協」)に加盟しました。知り合いの弁護士さ
 んから推薦を受けたからです。筆跡鑑定人としては当社1社だけが加盟しています。ご
 承知でしょうが、東弁協には東京都の弁護士さん約1万4千人が加盟しています。


  東弁協では、年に2回の会報を発行していますが、今年の4月号の「特約店活用事 
 例」に当社が取り上げられました。社名は記載されませんが、筆跡鑑定としては私ども
 1社しかありませんし、私・根本の図形が掲載されたりして図らずも良いPRになりま
 した。原口先生有り難とうございます。


  原口先生は、過去に数回、当社の鑑定をご利用頂きました。裁判所の指定した警察O
 Bの鑑定人の仕事にかなり腹を立てておられました。


  会報にも書いてありましたが、偽造や韜晦など作為筆跡の鑑定には警察の主流の「類
 似分析」ではほとんど役に立たないからです。


 ■警察系鑑定で主流の「類似分析」の限界


  「類似分析」とは、資料の同じ文字から、類似点と相違点を抽出して、多い方に軍配
 を挙げる方法です。一見、公平なようですが、何処が類似し、何処が相違しているかの
 判断は鑑定人に任されていますから、恣意が入る点ではなにも変わりません。


  なにより問題なのは、偽造や韜晦の作為筆跡の鑑定にはまったく無力だということで
 す。例えば偽造筆跡のケースです。このとき、概念図として、五輪のマークではありま
 せんが、中心が横にズレも二つの輪を考えてくだささい。




  図で言えば、中央の二つの輪がダブった部分が「類似点」です。左右のダブらない部
 分が「相違点」ということになるわけです。類似分析ではダブった部分が大きければ同
 筆(同一人の筆跡)、左右の相違部分が大きければ異筆となるわけです。


  偽造筆跡は、真似をして書くわけですから、当然、中央のダブった範囲に入る文字が
 多くなるわけです。そうすると、鑑定結果は「同筆」になってしまうということです。


  逆に自分の筆跡を隠蔽しようとする「韜晦筆跡」では、左右の相違箇所の文字が多く
 なり「異筆」となってしまいます。


  ……ということで「類似分析」は、悪意のある人間に、他愛もなく騙されてしまうと
 いうことになりです。会報に書かれた原口先生は、このような内容に呆れていたのです。
 先生方もご自身で経験されたら呆れてしまうと思います。


  何ともバカバカしいことですが、これが、これまで裁判で多用されてきた警察系の鑑
 定の実態です。私は、これらについて個人的な恨みはありませんが、結果として一般人
 を欺いてきたことには強い憤りを感じています。


  この問題点については、近年、裁判官にもようやく理解されてきて、有名な「一澤帆
 布遺言書事件」では、警察系三人の鑑定書が「偽造の場合は似せて書くため、類似点が
 多いからと言って直ちに同筆と認めるわけにはいかない」として退けられました。


  私は、年間に7〜8件、誤った鑑定書に対する反論書を書きますが、そのほとんどは
 類似分析による誤りに対するものです。


  先月のケースでは、相手の鑑定人はコンピュータを使った鑑定書でしたが、コンピ 
 ュータを使おうが、数値データを提示しようが、本質が類似分析である限り、誤りの補
 強をしてしまうことだけなのです。


 ■どのようにすれば「類似分析」を超えられるのか


  それでは、偽造や韜晦などの作為筆跡に見破るにはどうしたら良いのでしょうか。私
 は、第一に論理的アプーローチが必要だと思います。それはつぎのようなものです。


 @人は気づかない筆跡特徴には作為を施すことはできない。鑑定人は、気づきにくい箇
  所と気づきやすい箇所を知っていなければならない。


 A自分より書字技量が上級の者のタッチや筆致を模倣することはできない。鑑定人は、
  書字技量を見抜くセンスが必要である。


 B模倣が予測される場合は、類似点を追及しても筆者識別には役立たない。相違点を 
  追及してその相違が、同一人の個人内変動なのか、別人ゆえの筆跡個性なのかを精 
  査することが必要である。そのためには、鑑定人は、個人内変動の出やすい特徴と、
  出にくい特徴を知っていなければならない。


 C韜晦が予測される場合は、相違点を追及しても筆者識別には役立たない。類似点を 
  追及して、その類似が同一人の筆跡個性なのか、別人の作為なのかを精査することが
  必要である。前項同様、鑑定人は、変動しにくい筆跡個性と、作為しやすい箇所を知
  っていなければならない。


  ……ということになり、裁判所が望むような簡明な筆跡鑑定などというものは存在し
 ないのです。それはないものねだりです。


  つまり、筆跡鑑定とは、本質的に、高度な専門能力と公平で科学的な鑑定態度による
 以外は正しさが保証されないのです。


 ■最も大切なことは裁判所の考え方


  わが国の最高裁は、昭和41年に次のような判決により、筆跡鑑定の有効性を認めま
 した。


  
「いわゆる伝統的筆跡鑑定方法は、多分に鑑定人の経験と勘に頼るところがあり、こ
 との性質上、その証明力には自ら限界があるとしても、そのことから直ちに、この鑑定
 方法が非科学的で、不合理であるということはできないのであって、筆跡鑑定における
 これまでの経験の集積と、その経験によって裏付けられた判断は、鑑定人の単なる主観
 にすぎないもの、といえないことはもちろんである。したがって、事実審裁判所の自由
 心証によって、これを罪証に供すると否とは、その専権に属することがらであるといわ
 なければならない」
  
          最高裁昭和41年2月21日第二小法廷決定



  この判決そのものは正鵠を得たものと思いますが、このあと、「しかしながら、筆跡
 鑑定も恣意の入らない科学的な方向を目指していただきたい」との趣旨が付け加えられ
 たのです。


  私が思うには、当時、筆跡鑑定の中心を任じていた科学警察研究所(科警研)は、この
 ような要請になんとか応えようとしたのでしょう。そして生み出したのが「類似分析」
 だと思います。


  「筆跡特徴を類似・相違に二分してその多い方に軍配を挙げる」という方法は、確か
 に曖昧さや疑問を払拭して明快になったように感じさせます。しかし、事実としては、
 単に難しい鑑定には目をつぶったに過ぎません。


  全国の多数の科学捜査研究所(科捜研)の鑑定人に安定した技量を求めるとすれば、科
 警研としては止むを得ない仕儀であったのかも知れません。しかし、結果として、自ら
 手を縛って、社会の係争解決に役立つ能力を失ってしまったということもできます。


  今後の筆跡鑑定の発展のための第一のポイントは、裁判官が筆跡鑑定の専門性や微妙
 さを再認識し、警察系鑑定人に偏ることなく、広く社会の鑑定人を活用して競争を生み
 出すことにあると思います。競争のない溜まり水にはボーフラが湧くものです。


  このテーマは、日を改めてまた追及して見たいと思います。

                                 この項おわり




 
一般社団法人・日本筆跡鑑定人協会   株式会社・日本筆跡心理学協会 
代表 筆跡鑑定人  根本 寛(ねもと ひろし)
東京都弁護士協同組合特約店
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