知らないと損をする筆跡鑑定の話 第22話








事前調査と所見書のご利用方法




   ■筆跡鑑定で弁護士先生のリスクを回避しては如何でしょう


   随分春らしくなってまいりましたが、先生方はいかがお過ごしでしょうか。私は 
 「世に紛争のタネは尽きマジ」で、このところ、東京地裁や横浜家裁などをふくめ、多
  くの鑑定をご依頼頂いております。


   私どもの筆跡鑑定のメニューの中には「事前調査」と「所見書」というものがあり
  ますが、今回は、この目的や利用方法についてご説明致したいと思います。……事前
  調査とは、鑑定に先立って鑑定をした場合の方向性を確かめることです。


   つまり、遺言書などは、書き手は亡くなっているわけですから。真実である、偽物
  であるといくら主張されても真相は不明です。このようなケースの場合、例えば弁護
  士さんとしては、依頼人が「偽造です」と相談してきても「ああ、そうですか」と引
  け請けるわけにはいかないものと思います。


   仮に依頼人が「偽造です」と強く主張されたとしても、事前調査なりで真偽のほど
  を確かめなければ弁護方針が立てられないのではないでしょうか。依頼人のいうまま
  に、偽造の遺言書であるとして方針を立て、裁判を進めて、後半の厳しい局面で相手
  側から本物であるという明快な鑑定書が出されたら非常に困った立場になるのではな
  いかと思います。


   私は、このようなケースで依頼を受けて、鑑定書を書くことも少なくないので、相
  手の弁護士さんの立場に立って考えるとそう思うのです。一般の司法関係者と異なり、
  自分の鑑定書には絶対的な自信を持っているので余計にそう感じるのかも知れません。


   事前調査は、このようなリスクを回避するための一つの方法です。公判前に、事実
  を知って弁護方針を立てて臨む方が、依頼人にとっても弁護士先生にとっても望まし
  いのではないかと思います。勝利判決は得られなくとも、まずまずの条件で和解する
  可能性があるのではないでしょうか。


   ■事前調査を紙に記録すれば「所見書」となります。


   弁護士先生にとっての事前調査の意義を述べれば以上のようなものです。そして、
  事前調査は、口頭で結果をお話するものですが、口頭だけでなく簡単でも書面にして
  くれと言われることがあり、その場合の書面が「所見書」となります。


   したがって、所見書は、通常A4用紙1〜2枚に、鑑定をした場合の結果の予測を
  書き、鑑定人の印を押したものになります。ただし、結論としては「鑑定を行えば○
  ○となる予定です」という書き方になります。鑑定をしたわけではありませんから 
  「○○と認められる」という書き方はできません。これは、事前調査も同じことです。


   さて、事前調査は、本来は無料のものです。鑑定のご依頼に進むのであれば、それ
  は、鑑定の一部ですから特に別料金とはなりません。しかし、不利な立場であり、鑑
  定書はいらない、中止するという場合のみ有料で3万1千500円(消費税とも)と
  なります。


   事前調査と言っても、多くは鑑定の一部を実際に行って判断するものです。したが
  って、ケースによっては半日程度もかかる場合もあり、なかなか鑑定人の無料サービ
  スというわけにもいかないのです。所見書を書く場合は4万2千円(消費税とも)と
  なります。


   さて、有料のサービスと言いながら申し訳ないのですが、事前調査には限界もあり
  ます。それは、ケースによっては、事前調査では真偽の判断が付きにくく、鑑定をし
  ないと真実は解明できないという難しいケースもあるということです。


   その場合は、その旨率直に申し上げますのでご理解を頂きたいと思います。このよ
  うなケースは、高齢で筆跡が甚だしく乱れているケースや、プロ的な能力者による偽
  造が疑われるケースなどがあります。


   このようなケースでは、通常の鑑定のレベルを遥かに超えて、1文字1文字時間を
  かけて、じっくり取り組まないと中々真実は見えてこないのです。例えば画線の「払
  い」や「折れ部」の微妙な癖などの緻密な調査が必要になります。


   それも1、2字では、到底判別できなくて、10文字を超える文字で確かめないと、
   とても分からないようなケースです。稀に、その程度精査しないとはっきりしない
  というようなものがあります。このような内容のものは事前調査では無理なのですの
  です。


   ■稀に事前調査では明確にならない悩ましいケース。


   このようなケースで悩ましいのは、事前調査の結果は「不利な様子」ですが、真実
  を知るには、実際に鑑定をして確かめる必要があるというケースです。依頼人として
  は、鑑定した結果が自分にとって必要のないものになるのであれば、無駄なお金を掛
  けてはいられないという気持ちになるのは無理もありません。


   しかし、実体は、鑑定をしなければ、必要な解答は困難だというケースです。この
  ようなケースでは、私どもでは、簡易鑑定(9万円)をお勧めしています。それだけに、
  将来、本鑑定が必要になった場合は、その料金から簡易鑑定に要した費用の半額はお
  引きするということにしています。


   このようなケースで、弁護士さんを介さないで直接依頼者と対応している場合は、
  つぎのように説明しています。「鑑定とはもともとそのようなリスクを伴うものです。
  もし、鑑定結果があなたにとって不利なものであっても、それは、間違った判断で争
  って傷を深くすることを防ぐ意味があります。その費用だとご理解ください」と説得
  します。


   実際に、まさにそのようなケースで、鑑定書を熟読していただいて、「残念でした
  が、鑑定書を読んでみてよくわかりました。鑑定をして良かったと思います。親族と
  争いごとにならなくてよかったです」と率直にお礼を言われることもあり、やはり、
  真実を告げることは正解だなと思っています。


   ■簡易鑑定と称しての「所見書」にご用心 


   鑑定人も色々いますから、私どもの事前調査を「簡易鑑定」として4〜5万で行っ
  ている鑑定人もいますので、よく確認して進まれることが大切です。私どもで、簡易
  鑑定という場合は、あくまで「文字の分析を行う」もので、その点では本鑑定と変わ
  りません。


   ただ、裁判には使わないという前提で作成していますから、相手からあれこれとク
  レームをつけられるであろうことには留意していません。あくまで、真実を知るとい
  うことを目的としていますので、その分、シンプルになるということです。


   たとえば、法廷で争っている場合なら、鑑定すべき文字が20字あっても本来は全
  て取り上げないと、相手から「都合の良い文字だけを取り上げている」とクレームが
  出かねません。しかし、事実を知るだけでいいなら5文字で十分判断できるというこ
  ともあるわけです。


   しかし、簡易鑑定というものに共通のルールがあるけではありませんから、鑑定人
  によっては、私どもで言う所見書程度のものを簡易鑑定と称している鑑定人もおりま
  す。また、「筆跡異同診断」などと、筆跡鑑定と紛らわしい用語を使っている鑑定人
  もいるようですが、筆跡鑑定はあくまで筆跡鑑定という用語で統一されており、「診
  断」ではありませんのでご注意いただきたいと思います。

                                  この項終わり


 
一般社団法人・日本筆跡鑑定人協会   株式会社・日本筆跡心理学協会 
代表 筆跡鑑定人  根本 寛(ねもと ひろし)
東京都弁護士協同組合特約店
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