筆跡鑑定 メールマガジン 第8号








★☆★「知らないと損する筆跡鑑定の話」第8号 ★☆★



◆筆跡鑑定を成り立たせている四大要素

 


  筆跡鑑定を成り立たせているのは四つの要素です。弁護士の先生方は、特に知らなくと
  も鑑定書を理解する上では変わりませんが、四要素を正確に知っているといないとでは
  鑑定書の活用については少し差がつくかも知れません。今回は、その四つの要素につい
  て説明いたします。


  筆跡鑑定を成り立たせている四大要素とは、「筆跡個性」、「筆跡個性の恒常性」、 
  「筆跡個性の稀少性」そして、「文字を書くときの無自覚性」です。



  ◆第一の要素「筆跡個性」


  第1には、「筆跡個性」の存在です。これは「筆癖」ともいい、書き手独自の筆跡の癖
  を言います。人は、誰でもその人独自の行動傾向がありますが、筆跡は「文字を書くと
  いう行動の結果……行動の痕跡」なので、そこに独自の癖というものが表れます。それ
  が、筆跡個性というものです。


  例えば、「大」という字を想像して下さい。ある人は横画の上に縦画を長く突出させ、
  また別の人は、その突出を短く書きます。これも一つの筆跡個性で、このような筆跡個
  性は何回書いてもほぼ同じ特徴を示します。
  突出が短い人に、「長く書いてみよ」と強制しても20字〜30字も書くうちには元に
  戻ってしまいます。何故でしょうか。これは、「深層心理」の「行動管理機能」によっ
  て私たちの行動が管理されている姿です。


  私たちは、自分の行動は意識して行っていると思いがちですが、実は行動の大部分は深
  層心理によって無意識に行われているのです。例えば、「10時までに事務所に行く」
  ということは意識していますが、玄関のドアをどのように開けたのか、道で知人に出会
  ったとき、どんな挨拶をしたのかなどは、特に意識しないで行動しているわけです。


  これを、文字に置き換えれば「東京」と書くことは意識していても、横画をどの程度の
  長さに書くのか、ハネの強さはどの程度強く書こうかなどは意識していません。それで
  も書けるのは、深層心理によって管理されているからできるわけです。



  ◆第二の要素「筆跡個性の恒常性」


  筆跡はこのように深層心理に管理されているものですから、その筆跡に表れる特徴とは、
  いつも同じようなパターンになるわけです。これが、これが筆跡鑑定を成り立たせてい
  る第2のカギ「筆跡個性の恒常性」というものです。


  なぜ、そのような「恒常性」があるのかといいますと、言い方を変えれば、結局、人は
  自分の深層心理にフィットする文字を書いているからなのです。ですから、深層心理…
  …つまり性格と言っても構いませんが、それが変わらない限り一定の文字を恒常的に書
  くわけです。


  考えてみると深層心理の影響力は大したものですが、私たちはほとんど意識しないで生
  活しております。しかし、一面、深層心理は不変ではありません。生きている限り変化
  し続けているのです。ただ、年齢を重ねるにつれて変化の度合いは小さくなります。



  ◆筆跡を変えることで行動傾向が変えられる


  例えば、書道を習うと、「ハネ」は必ずしっかり書くようになります。ハネは最後まで
  力を抜かない粘り強い性格の表れです。筆跡は行動の表れですから、その行動を、書道
  という方法で粘り強く変えていくと、それは他の行動にも影響してきます。


  つまり、筆跡は、それを変えることによって、その方の行動傾向を変える力があるとい
  うことです。ハネの例は、それまで、必ずしも粘り強いとは言えなかった人が書道によ
  って自己を改善した例と言えるのです。


  ハネと言えば、面白いことがありまして、暴力犯は、概ね力強い角張った文字を書くも
  のです。当然ハネも強く書きそうに思いますが、何故かハネを書かない人が多いのです。
  考えてみれば、粘り強いということは、ものを考えるにも「熟慮する」という行動につ
  ながりますので、軽々に犯罪を犯したりはしないのでしょう。



  ◆第三の要素「筆跡個性の稀少性」


  筆跡鑑定が成り立つのは、第一に筆跡個性があり、第二に筆跡個性には恒常性があるか
  らですが、筆跡個性といっても、それは非常に珍しいものからありふれたものまで千差
  万別です。鑑定上効果的なのは、珍しい筆跡です。この「筆跡個性の稀少性」が、筆跡
  鑑定を成り立たせている第3のカギになります。


  20人以上に1人程度しか書かない筆跡個性を「稀少筆跡個性」、10〜19人に1人
  程度書くものを「やや稀少」と言っております。20人に1人は0.5ですから、3箇所もあ
  れば、05×05×05=0.015となり、すぐに1000人に1人程度の筆跡になり、普通の民事事
  件なら確定してもよい程度になります。


  稀少筆跡個性の一つとしてもう一つ有効なのは「誤字」になります。鑑定資料と対照資
  料の両方に同じ誤字があれば同筆、片方の資料だけであれば異筆の強い証拠になります。


  もちろん誤字に限らず、例えば「成」の字で「極端に大きなハネ」を書くとか、「極端
  に横幅の広い文字」など、要はめったに見ないような書き方は稀少筆跡個性ということ
  になります。


  このあたりをさらに詳しく知りたい方は
    http://www.kcon-nemoto.com/journal/kantei_journal_65.html



  ◆筆跡鑑定を難しくしている「個人内変動」


  ただし、筆跡個性には強力な伏兵がいて、それが「個人内変動」というものです。個人
  内変動とは、同じ人が同じ文字を書いた時に生じる変化のことです。人の書く文字は印
  鑑ではありませんから、書くつどに変化します。そして、これは人により変化の大きい
  人、小さな人と個人差があります。これが筆跡鑑定を難しくしている大きな要因です。


  ある人は、それこそゴム印のごとく安定した書き方をします。別の人は、自分の名前な
  のに、書くつどに別人のように変化します。一般に書記や事務員のように文字を書きな
  れている人は個人内変動は小さく、あまり文字を書かない人は変化が大きいのです。


  この個人内変動のために判断が分かれ、ある鑑定人は同筆といい、ある鑑定人は異筆と
  いうような違いが起こるわけです。たとえば自分の名前を書いても相当に変化している
  ことがあります。このように場合、その変化は本人の個人内変動であるのか、それとも
  別人が偽造したための変化なのかを判別することは筆跡鑑定人にとって実力が試される
  ところです。


  どうすれば判別できるのかということですが、作為筆跡は、作為を持って書いています
  からも自然のままではありません。つまり、同じ文字……「郎」なら「郎」を調べてい
  くと作為筆跡は、その癖がばらつきます。自然のままに書いていれば一定の癖で安定し
  ているものですが、その癖が変化するということです。



  ◆ひらがな、カタカナ、アラビア数字は鑑定の宝物


  長い文書などでは、たとえば「ひらがな」などに作為を施すことは一般に困難です。一
  つの文章に、たとえば「ます」などは何回も出て来ますから、それを全て作為を施して
  書くなどは普通出来ません。したがって、そのような部分から作為筆跡が露呈してしま
  うということも少なくありません。


  今年の六月に小沢一郎夫人の離婚の手紙の真贋が話題になりました。私はマスコミから
  依頼されて鑑定いたしましたが、鑑定では名前の文字だけではなく、長い手紙のひらが
  なも調べて確認しました。


  一例ですが、夫人の書く「お」の字は、第3画が斜めでなく直立気味になります。それ
  が11枚の手紙の中に無数にあり、いずれも同じ特徴を示していましたので作為のない
  自然筆跡であることがわかると同時に、書き手の特定もできたわけです。


  その点で、警察OBの鑑定人には、ひらがな、ムカタカナ、アラビア数字などは鑑定しな
  いという鑑定人がいますが、随分贅沢な鑑定人だと思いますし、そんなことで鑑定人と
  しての社会的役割が果たせるのかと思います。


  しかし、世の中には特異能力者がいるもので、少し古い話になりますが、酒鬼薔薇聖
  斗の場合は、声明文と普段の筆跡にはかなり違いがあります。なにより、驚いたこと
  には、声明文には、「の・に・て・を」等文字が何回も書かれているのですが、それ
  らが作為筆跡であるにも関わらず、安定した一定のパターンを示していたことです。
  警察の鑑定では「類似点はあるが同一人の筆跡と見るのは困難である」ということで
  した。


  普通ならば、普段の筆跡と違う形に書いているのですから、書くたびに変化するもので
  す。しかし、それが、安定したパターンを示していたのです。判決ではA少年は、「直
  感像素質者」と言われました。直感像素質者とは以前見たものがまるで目の前にあるよ
  うに鮮明にみえる現象をいいます。


  私は、それもあるかと思いますが、少女たちの丸文字などを見ると、瞬く間にものにし
  てしまいます。彼女たちの多くは、丸文字と普通の書体とを上手に書き分けます。ある
  時期、人間は大人にはもちえない独自の才能を見せるものだと思います。私は、このよ
  うな事実についても「我々が知っていることはごく一部にすぎない」と謙虚に受け止め
  て対応することが大切だと思っています。



  ◆鑑定の第四のカギは文字を書くときの「無自覚性」


  筆跡鑑定の第四のカギは、文字を書くときの「無自覚性」です。私たちは、文字を書い
  ているときに、「この横画はこの程度の長さにしよう」とか「ハネはこの程度の強さに
  書こう」等と考えることはありません。これを「筆跡の無自覚性」と言います。


  この無自覚性は、特に、偽造や韜晦(とうかい…自分の筆跡を隠して書くこと)などを見
  破るときに威力を発揮します。なぜなら、人は、「気づかない筆跡個性に作為を施すこ
  とはできない」からです。


  偽造の場合、「ここに書き手の癖があるな」と気づいた部分には作為を施すことができ
  ます。しかし、気づかない箇所に作為を施すことはできません。韜晦は自分の筆跡個性
  に作為を施すわけですが、やはり気づかない箇所には作為の施しようがありません。鑑
  定人は、そのような箇所を注意深く観察して見抜いてしまうのです。


  ……ということで、筆跡鑑定は、「筆跡個性」、「筆跡の恒常性」、「稀少筆跡個性」、
  そして、もう一つ文字を書くときの「無自覚性」が相まって成立しています。これら
  の要素を真に深く理解し正しい態度で臨むならば、「勘と経験による筆跡鑑定はあま
  り信頼できない」などと言われるようなものではありません。

                        この項終わり

  私は、誤った鑑定書を強く憎んでおりますが、次回は、なぜそのような気持ちになっ
  たのか、その理由をお伝えさせて頂きます。

 
一般社団法人・日本筆跡鑑定人協会   株式会社・日本筆跡心理学協会 
代表 筆跡鑑定人  根本 寛(ねもと ひろし)
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